テイクアウトのスパイスカレー@ちょい呑み食堂

落ち込んだ時には

 事務所のラジオが正午を告げる。クーラーの調子が悪く、とても蒸し暑い。「先輩! 忙しそうだし、わたし、お昼買ってきますね」と、後輩の美佳が気をきかせてくれた。
 今日の出勤は、美佳と私の2人きりだ。思うように進まない仕事と、この暑さにどうしてもピリピリしてしまう。美佳に対してもぞんざいな対応をしてしまいがちで、罪悪感を覚えながらキーボードを叩いた。〆切まであと2日。奇跡でも起きないと間に合わないところまで、追い詰められていた。
 美佳と一緒に仕事を進めるのは初めてだった。後輩に良いところを見せようと、張り切り過ぎたのかもしれない。彼女に気を使わせてしまっているのが、なにより情けなかった。大きな溜息を吐きながら、びっしりと書き込まれたスケジュール帳に目を通す。
「今日は終電決定かな……」

*  

 事務所に帰ってきた汗だくの美佳から、包みを受け取る。「ちゃんと窓開けてから食べてくださいね」と、言われ私は小首を傾げた。
 包みを開くと、スパイスの刺激的な香り。「え! この暑いのにカレー?」と、私は思わず声を出してしまった。匂いが籠るといけないので、事務所の窓を全開にする。むわっとした夏の熱気と、カレーの匂いに、クラクラしてしまいそうだ。
「先輩の大好きな『tutini』のカレーですよ」
 美佳が胸を張る。いや、だからこの暑いのに……と思ったが、彼女の屈託のない表情に毒気を抜かれてしまった。そもそも暑い中買って来てもらったのだから、文句を言える立場じゃない。私は、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、お礼の言葉と共に美佳へ手渡した。 『tutini』は、私が入社したばかりの頃に、先輩から紹介してもらったお店だ。野菜をたっぷり使った定食やカレーが美味しくて気に入っている。
「私は日替わりのから揚げにしました。先輩に初めて飲みに連れて行ってもらったのもこのお店でしたね」
 そうそう、彼女と初めて飲みに行ったのもこのお店だ。上司に思いっきり怒られ、落ち込んでいた美佳を慰めようと、カレーに彼女の大好物のから揚げをたくさん乗せてあげたんだった。から揚げを口いっぱいに頬張ったら、美佳の機嫌があっという間に良くなったのを今でも覚えている。
「うん。落ち着いたら、また飲みに行こうね」
 『tutini』のカレーは週替わりで、どんなカレーが出てくるのかと、いつもわくわくしてしまう。今日は、チキンとトマトのカレーだ。大きな鶏肉が、たくさん入っていて食べ応えもありそう。
 スパイス入りのポテトサラダと、ズッキーニのアチャール。オニオンとオレンジのカラフルなサラダ。まずはカレーのルーだけを一口。ほどよいトマトの酸味、後からじわっと辛くなる。体温が上がっていくのを感じながら、鶏肉をご飯の上に乗せて一口で頬張る。本格的なスパイスカレーなのに、玄米とものすごく合う。
 アチャールはインドのお漬物だ。口の中がキューっとなるほど酸っぱいので、カレー一色だった口の中がリセットされる。オレンジのサラダは、さわやかで甘酸っぱい。
 こんな暑い日にカレー? と思ったけれど、暑いからこそカレーだ。汗だくになりながら、あっという間に完食。ペットボトルの水を飲み干し、ようやく一息付いた。吹き込んだ風が、汗だくになった身体を通り抜けていく。

「……美佳ちゃん、色々余裕がなくてごめんね。ちょっと元気でた」
「気にしないでください、先輩。落ち込んだときにはカレーですから」
 から揚げを頬張りながら、美佳が笑った。午後も頑張れそうな気がする。

7月6日のお昼
テイクアウトのスパイスカレー
@ちょい呑み食堂tutini

落ち込んだ時には

 事務所のラジオが正午を告げる。クーラーの調子が悪く、とても蒸し暑い。「先輩! 忙しそうだし、わたし、お昼買ってきますね」と、後輩の美佳が気をきかせてくれた。
 今日の出勤は、美佳と私の2人きりだ。思うように進まない仕事と、この暑さにどうしてもピリピリしてしまう。美佳に対してもぞんざいな対応をしてしまいがちで、罪悪感を覚えながらキーボードを叩いた。〆切まであと2日。奇跡でも起きないと間に合わないところまで、追い詰められていた。
 美佳と一緒に仕事を進めるのは初めてだった。後輩に良いところを見せようと、張り切り過ぎたのかもしれない。彼女に気を使わせてしまっているのが、なにより情けなかった。大きな溜息を吐きながら、びっしりと書き込まれたスケジュール帳に目を通す。
「今日は終電決定かな……」

*  

 事務所に帰ってきた汗だくの美佳から、包みを受け取る。「ちゃんと窓開けてから食べてくださいね」と、言われ私は小首を傾げた。
 包みを開くと、スパイスの刺激的な香り。「え! この暑いのにカレー?」と、私は思わず声を出してしまった。匂いが籠るといけないので、事務所の窓を全開にする。むわっとした夏の熱気と、カレーの匂いに、クラクラしてしまいそうだ。
「先輩の大好きな『tutini』のカレーですよ」
 美佳が胸を張る。いや、だからこの暑いのに……と思ったが、彼女の屈託のない表情に毒気を抜かれてしまった。そもそも暑い中買って来てもらったのだから、文句を言える立場じゃない。私は、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、お礼の言葉と共に美佳へ手渡した。 『tutini』は、私が入社したばかりの頃に、先輩から紹介してもらったお店だ。野菜をたっぷり使った定食やカレーが美味しくて気に入っている。
「私は日替わりのから揚げにしました。先輩に初めて飲みに連れて行ってもらったのもこのお店でしたね」
 そうそう、彼女と初めて飲みに行ったのもこのお店だ。上司に思いっきり怒られ、落ち込んでいた美佳を慰めようと、カレーに彼女の大好物のから揚げをたくさん乗せてあげたんだった。から揚げを口いっぱいに頬張ったら、美佳の機嫌があっという間に良くなったのを今でも覚えている。
「うん。落ち着いたら、また飲みに行こうね」
 『tutini』のカレーは週替わりで、どんなカレーが出てくるのかと、いつもわくわくしてしまう。今日は、チキンとトマトのカレーだ。大きな鶏肉が、たくさん入っていて食べ応えもありそう。
 スパイス入りのポテトサラダと、ズッキーニのアチャール。オニオンとオレンジのカラフルなサラダ。まずはカレーのルーだけを一口。ほどよいトマトの酸味、後からじわっと辛くなる。体温が上がっていくのを感じながら、鶏肉をご飯の上に乗せて一口で頬張る。本格的なスパイスカレーなのに、玄米とものすごく合う。
 アチャールはインドのお漬物だ。口の中がキューっとなるほど酸っぱいので、カレー一色だった口の中がリセットされる。オレンジのサラダは、さわやかで甘酸っぱい。
 こんな暑い日にカレー? と思ったけれど、暑いからこそカレーだ。汗だくになりながら、あっという間に完食。ペットボトルの水を飲み干し、ようやく一息付いた。吹き込んだ風が、汗だくになった身体を通り抜けていく。

「……美佳ちゃん、色々余裕がなくてごめんね。ちょっと元気でた」
「気にしないでください、先輩。落ち込んだときにはカレーですから」
 から揚げを頬張りながら、美佳が笑った。午後も頑張れそうな気がする。

ちょい呑みbar tutini

ランチメニューは「週替わりスパイスカレー」と「日替わり一汁三菜定食」で、各780円。
事前の電話注文で、出来立てをすぐに持ち帰れます。
ランチメニューは夜の部も提供可能です。
旬の野野菜がリーズナブルなお値段でたっぷり食べられると、昼はサラリーマン、夜は地元のお客さんで賑わっています。
夜の部のお勧めメニューは、ちょい呑みセット1000円。
お好きなドリンク1杯と、ミニチャーシューやポテトサラダなどのお酒に合うアテが日替わりで2品楽しめます。

これまでの「なかつのおひる」